不死の人/ホルヘ・ルイス・ボルヘス/1980
- 作者: ホルヘ・ルイスボルヘス,Jorge Luis Borges,土岐恒二
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1996/08/01
- メディア: 新書
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ボルヘスは、伊藤計劃のブログにも何度も出てくるし、最近読んだ本でも名前をたびたび目にしていた。
この知の巨人と呼ばれる人は、アルゼンチンの作家・詩人で、古今東西のあらゆる本をとにかくめちゃくちゃ読んだものすごい読書家。しかし晩年は、目の病気で盲目になってしまう。
今回読んだのは、原題「エル・アレフ」に邦題「不死の人」がつけられた、白水社の世界の文学シリーズからでているもの。訳は土岐恒二。
・不死の人
・死んだ男
・神学者たち
・戦士と囚われの女の物語
・タデオ・イシドロ・クルスの生涯
・エンマ・ツンツ
・アステリオーンの家
・もうひとつの死
・ドイツ鎮魂曲
・アヴェロエスの探求
・ザーヒル
・神の書跡
・アバン・ハカーン・エル・ボバリー おのれの迷宮にて死す
・ふたりの王とふたつの迷宮
・期待
・敷居の上の男
・アレフ
の17の短編が収められている。
輪廻、円環、迷宮、神、言語、哲学、不死性、不条理、混沌、世界。それらについての短くて途方もない話。
著者がエピローグで、本書の作品は幻想物語のジャンルに属している、と述べている。
幻想ということばで思い出すのは、小さいとき、サン=テグジュペリ『星の王子さま』を読んだ時に、「これって本当の話だよね?」と純粋に信じちゃう懐かしい感覚。
この話は実話なのかもしれない、だとしたら、薔薇は喋るし王子さまも実在する…
自分の世界が、本を読む前と読んだ後とで少し変わっているような奇妙な感覚を、この歳になって再び味わうことになるとは。
書物が世界なら、幻想は現実なのかもしれない……
本文は難しかった。文体に慣れるまでは誰の一人称なのかわかりにくいし、知らない横文字や引用が多くて、スマホ片手にぐぐりながら読み進めた。それでも難解だったし、ギリシア神話、ホローメスなどを知っていたらもっと楽しめるんだろうなと思った。
思ってたけど……!
本作最後の表題作「アレフ」に衝撃を受けて放心した。少し引用させてもらおう。
わたしはあらゆる地点からアレフを見た。アレフの中に地球を、そして地球のなかにアレフを、さらにこんどはアレフのなかに地球を見た。自分の顔と自分の臓腑(はらわた)を見た。あなたの顔を見て目眩(めまい)を感じ、そして泣いたのだ。なぜならわたしの目は、その名を口にする人は多いが誰も見たことのないあの秘密の、推量するしかないもの、すなわちあの思量を絶した世界を見てしまったのだから。
アレフとは、主人公の友人の地下室にある、「あらゆる点を含む空間の一点である」もの。
この無限のアレフの描写を通して、神を表像するとはどういうことか、すなわち、言語化が不可能なものを、言語によって他者と共有するとはどういうことなのかを考えずにはいられなかった。
そして、ボルヘスの途方もない思索を、アレフの畳み掛けるような簡潔な描写の羅列に垣間みた。
…ぶるったよ正直。最高やんかボルヘス。