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まる子ムの生息地です。本読んだりゲームしたり。

キャッチャー・イン・ザ・ライ/J.D.サリンジャー、村上春樹/2006

 

キャッチャー・イン・ザ・ライ (ペーパーバック・エディション)

キャッチャー・イン・ザ・ライ (ペーパーバック・エディション)

 

 

野崎孝訳のものを読み終わった直後に、村上春樹訳も読んでみました。


ホールデンの語り口調が面白すぎて終始笑っていました。こんな16歳が本当にいたらいつまでも喋っていたいです。

村上春樹訳は、ホールデンの「なにもかも気が滅入っちまうぜ」感が顕著で、語りがより情けなくて面白くて最高でした。あと読みやすかったです。


私のとても好きなシーンのひとつが、ホールデンが悪友アクリーに読書を邪魔されるところです。何回読んでも笑ってしまう…


野崎版

「やあ」僕もそう言ったが、本から顔は上げなかった。アクリーみたいな奴を相手にした場合、本から顔を上げたりしたら、もう負けさ。いずれは負けることになるんだけど、でも早速に顔を上げなければ、すぐ負けなくてすむからな。


村上版

「よう」と僕は言った。本から顔も上げなかった。アックリーみたいなやつを相手にするときには、読んでる本から顔を上げたりしちゃだめだ。そんなことをしたらこっちの負けだ。まあどうせ勝ち目はないんだけど、それでもすぐに顔を上げたりしなければ多少は時間を稼げる。


こちらは野崎訳に軍配が上がりました(笑)

 


ところで、村上春樹にはしょーもない苦い思い出があります。

以前病院のカフェで家族の手術の終わるのを待ってたとき、村上春樹の「海辺のカフカ」かなんかを読んでいました。そしたら端っこに座ってるオバハンたちが、明らかにこっちをチラチラ見ながら「ハルキスト」とか言ってるんですよ。まぁ馬鹿にされてるんやなぁというのが伝わってきてそのときは非常に胸糞悪くなりました。

まだスタバでマックブックエアやらiPadproなんかをドヤ顔で広げてラテを片手に「ノルウェイの森」とかを読んでないだけマシやろ…思いました。そもそもそんなに私は氏の作品を読み込んでるわけじゃないから逆に本物のハルキストの方々に失礼では?みたいな気持ちになったりもしました。

でも事実として、氏の文章はまず読みやすいです。そしてやっぱり面白いし好きです。翻訳も好きですし氏の小説もリアリティの隙間の中のおとぎ話のようで好きです。それが自分の中で全てなのだと気付きました。やれやれ。

 


話は戻って、本作の一番最後のホールデンとフィービーの回転木馬のシーン。

ホールデンはベンチに座って、回転木馬に乗る妹のフィービーを見ています。すると雨が降ってくる。しかもけっこうな土砂降り。でもホールデンはずぶ濡れになるのもかまわず、ただベンチに座って回り続けるフィービーを見守り続けます。「やみくもに幸福な気持ちになって」「あやうく大声をあげて泣き出して」しまいそうになりながら…

これにはまったく参ったね(ホールデン風)こっちもあやうく涙が出そうになってきます。このシーンで雨を降らせたサリンジャー氏の感性がすごすぎて…読後はこの場面の余韻でぼけっとしてしまいました。


I’d just be the catcher in the rye and all.


村上版は注釈もとてもいい仕事をしていて好きです。今回は、アリーの野球ミットに書かれた詩の一部がルパート・ブルックとエミリー・ディッキンソンであるとちゃんとメモしました。今度、岩波文庫から出ているディッキンソン詩集を読んでみようと思います。